世の中には病院に行くことも、たどり着くこともできずに命を失ってしまう患者がゴマンといる。その典型が街中や路上、あるいは会社や自宅などで起こる突然の心停止である。そばに医者はいないし、救急車を呼んでも間に合わない。突然死なんだからしょうがない、そう言ってあきらめるしかなかった。
ところがである。AEDという音声ガイド付き、押しボタン式小型救命装置が出現したおかげで、近くに居合わせた素人がそれを使って人の命を救える可能性がでてきた。といってもそう簡単に救命などという究極の医療を素人に任せられるなど、誰も信じちゃくれない。医療の医の字も知らないズブの素人が、赤の他人に電気ショックという物騒なことをするなんて。そんな声が世間だけでなく医者の中からも湧き上がった。すったもんだの末、それでもなんとか2004年、素人が頼まれもしないのに緊急の場面でAEDを使って救命、というちょっと無謀な社会実験が日本全国で始まった。
それから20年余、果たしてこの壮大な社会実験は成果をあげたのか。医者にできなかった病院外での救命を、本当に素人が実現できる世の中になったのか、そして将来も期待できそうなのか、語ってみたい。
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